CentOS Linux の提供が終了したことを受けて、CentOS の代わりとなる「AlmaLinux(アルマリナックス)」と「Rocky Linux (ロッキーリナックス)」という2つの新しい Linux ディストリビューションが開発されました。どちらも CentOS Linux と同じく RHEL(Red Hat Enterprise Linux)互換のため CentOS ほぼ同じように使えることが魅力です。しかし CentOS の乗り換え先を AlmaLinux にするか Rocky Linux にするか、迷うところではないでしょうか? そこで今回は、2025年7月現在の AlmaLinux と Rocky Linux の状況を調べてみました。
AlmaLinux と Rocky Linux の比較
2025年7月3日現在の AlmaLinux と Rocky Linux の状況です。
開発コミュニティやメインスポンサーは違いますが、AlmaLinux と Rocky Linux どちらも Red Hat Enterprise Linux との互換性を重視することを方針とし、最新バージョンとなる 10.x のセキュリティサポートは2035年5月31日までを予定しています。
名称 | AlmaLinux(アルマリナックス) | Rocky Linux(ロッキーリナックス) |
---|---|---|
URL(日本語) | https://almalinux.org/ja/ | https://rockylinux.org/ |
名前の由来 | Alma はスペイン語や他のラテン系の言語で魂を意味します。振り返ってみると、Linux がこれほど広く普及、浸透しているのは情熱的で多様な開発者コミュニティの努力によるものだと容易にわかります。そのコミュニティこそが Linux の魂であり、Linux ディストリビューションを利用するすべての人が Linux コミュニティの努力に感謝しています。これが私たちのディストリビューションを AlmaLinux OS と名付けた理由です。(引用元:https://almalinux.org/ja/) | CentOSの初期に振り返ると... 私(=Rocky Linuxの設立者のグレゴリー・クルツァー氏)の共同創設者はRocky McGaughでした。彼はもういません。だから、CentOSの成功を見届けることができなかった彼に敬意を表して紹介します... Rocky Linux です。(引用元:https://rockylinux.org/ja-JP/about) |
方針 | AlmaLinux はオープンソースで永久無料のエンタープライズLinuxディストリビューションであり、長期的な安定性と堅牢なプロダクショングレードプラットフォームに重点を置き、コミュニティによって管理・運営されています。AlmaLinux OSはRHEL®とバイナリ互換性があります。AlmaLinux OS財団は、プロジェクトの所有権とガバナンスを管理するために、501(c)(6)の非営利団体として設立されました。財団は400人以上の個人メンバー、100人以上のミラースポンサー、25人以上の企業スポンサーを含んでいます。(引用元:https://wiki.almalinux.org/) | Rocky Linux はオープンソースのエンタープライズオペレーティングシステムで、Red Hat Enterprise Linux® と 100% バグ互換になるように設計されています。 Rocky Linuxはコミュニティによって集中的に開発されています。(引用元:https://rockylinux.org/) |
RHELとの互換性 | AlmaLinux OS Foundation理事会は本日(2023年7月13日)、RHELと1:1になることを目指すことを取りやめることを決定した。AlmaLinux OSはその代わりにアプリケーション・バイナリ・インターフェース(ABI)互換*を目指します。 * 私たちの場合のABI互換性とは、RHEL(またはRHELクローン)上で動作するようにビルドされたアプリケーションがAlmaLinux上で問題なく動作することを保証するための作業を意味します。 (引用元:https://almalinux.org/ja/blog/future-of-almalinux/) | バグまで含めた100%の互換性 |
開発コミュニティ | The AlmaLinux OS Foundation | Rocky Enterprise Software Foundation |
メインスポンサー | CloudLinux Inc | CIQ(グレゴリー・クルツァー氏の会社) |
主なパートナー | サイバートラスト、TuxCare | CIQ、Advanced Clustering Technologies |
その他のスポンサー | AWS、Microsoft Azure、arm、EQUINIXなど | AWS、Google Cloud、arm、EQUINIXなど |
サポート期間(8.x) | アクティブサポートは2024年5月31日まで、セキュリティサポートは2029年5月31日まで、各マイナーバージョンは、新バージョンがリリースされた時点でサポート終了となる。 | アクティブサポートは2024年5月31日まで、サポート終了は2029年5月31日を予定 |
サポート期間(9.x) | アクティブサポートは2027年5月31日まで、セキュリティサポートは2032年5月31日まで、各マイナーバージョンは、新バージョンがリリースされた時点でサポート終了となる | アクティブサポートは2027年5月31日まで、サポート終了は2032年5月31日を予定 |
サポート期間(10.x) | アクティブサポートは2030年5月31日まで、セキュリティサポートは2035年5月31日まで、各マイナーバージョンは、新バージョンがリリースされた時点でサポート終了となる。 | アクティブサポートは2030年5月31日まで、セキュリティサポートは2035年5月31日を予定 |
8.4のリリース日 | 2021-05-26(遅延8日) | 2021-06-21(遅延34日) |
8.5のリリース日 | 2021-11-12(遅延3日) | 2021-11-15(遅延6日) |
8.6のリリース日 | 2022-05-12(遅延2日) | 2022-05-16(遅延6日) |
8.7のリリース日 | 2022-11-10(遅延1日) | 2022-11-11(遅延2日) |
8.8のリリース日 | 2023-05-18(遅延2日) | 2023-05-20(遅延4日) |
8.9のリリース日 | 2023-11-21(遅延7日) | 2023-11-22(遅延8日) |
8.10のリリース日 | 2024-05-28(遅延6日) | 2024-05-31(遅延9日) |
9.0のリリース日 | 2022-05-26(遅延9日) | 2022-07-14(遅延58日) |
9.1のリリース日 | 2022-11-16(遅延1日) | 2022-11-26(遅延11日) |
9.2のリリース日 | 2023-05-10(遅延0日) | 2023-05-16(遅延6日) |
9.3のリリース日 | 2023-11-13(遅延6日) | 2023-11-20(遅延13日) |
9.4のリリース日 | 2024-05-06(遅延6日) | 2024-05-09(遅延9日) |
9.5のリリース日 | 2024-11-18(遅延6日) | 2024-11-19(遅延7日) |
10.0のリリース日 | 2025-05-27(遅延7日) | 2025-06-11(遅延22日) |
対応しているアーキテクチャ(8.10) | x86_64、ARM64、ppc64le、s390x | x86_64、ARM64 |
対応しているアーキテクチャ(9.x) | x86_64、ARM64、ppc64le、s390x | x86_64、ARM64、ppc64le、s390x |
対応しているアーキテクチャ(10.x) | x86_64、x86_64_v2、ARM64、ppc64le、s390x | x86_64、ARM64、ppc64le、s390x、riscv64 |
ソースコードのリポジトリ | https://github.com/AlmaLinux/ | https://github.com/rocky-linux/ |
CentOS Linux 8 などからの移行ツール | 有り(almalinux-deploy) | 有り(rocky-tools) |
参考資料:
AlmaLinux Release Notes
Rocky Linux Release Version Guide
Red Hat Enterprise Linux のリリース日
Red Hat Enterprise Linux 10 のプレスリリース
クラウドサービスなどの対応状況
続いて、2025年7月3日現在のメガクラウド3社と国産クラウドおよびVPSにおける AlmaLinux と Rocky Linux の対応状況です。
ご利用の際は、公式の最新情報をご確認ください。
AlmaLinux | Rocky Linux | |
---|---|---|
AWS(EC2) | ○ | ○ |
Microsoft Azure(VM) | ○*1 | ○*1 |
Google Cloud(Compute Engine) | ○*2 | ○ |
さくらのクラウド | ○ | ○ |
IIJ GIOインフラストラクチャーP2 | ○ | ○ |
さくらのVPS | ○ | ○ |
ConoHa VPS | ○ | ○ |
KAGOYA CLOUD VPS | ○ | ○ |
*1)Marketplace からの提供
*2)Marketplace からの提供
動作検証
実際に CentOS Linux 8 で稼働していた本番環境(とはいってもこのブログサイトですが)を AlmaLinux 8 で構築した LAMP環境、Rocky Linux 8 で構築した LAMP環境にそれぞれ移行してみましたが、問題なく動作しています。
関連記事:
AlmaLinux 8.4 LAMPサーバインストールメモ【Apache2.4+MySQL8.0+PHP7.4】
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AlmaLinux 9.2 LAMPサーバインストールメモ【Apache2.4+MySQL8.0+PHP8.2】
Rocky Linux 9.2 LAMPサーバインストールメモ【Apache2.4+MySQL8.0+PHP8.2】
どちらを選べばいいの?
AlmaLinux と Rocky Linux は両方とも素晴らしい Linux ディストリビューションです。どちらを選んでもまったく問題ありません。
ただし、2023年6月 Red Hat は git.centos.org リポジトリの更新を停止したため、このリポジトリからソースコードを取得してビルドしていた AlmaLinux や Rocky Linux など、RHELクローンと呼ばれる Linux ディストリビューションは、ソースコードの取得先の変更を求められています。そのため、今後の各社の動きに注目しておく必要があります。
この件については、次のセクションにまとめてみました。
Linux エコシステムの切断(2023年6月)
これまで Red Hat は、RHEL(Red Hat Enterprise Linux)のアップデートがあると、そのソースコードを git.centos.org リポジトリにプッシュして公開していました。git.centos.org で公開されているソースコードは、Red Hat のガイドライン を遵守することを条件にビルドして再配布することが可能です。こうして再配布されいる(されていた)Linux ディストリビューションが AlmaLinux や Rocky Linux です。
この一連の流れは「Linux エコシステム」などと呼ばれます。上の図では省略していますが、CentOS Stream の上流(「アップストリーム」とも呼ばれます)には Fedora Linux が、そのさらに上流には Apache や OpenSSL などのオープンソースプロジェクトがあり、他の Linux ディストリビューションも含めて Linux エコシステムが形成されています。
しかし、2023年6月 この Linux エコシステムの一部が切断されました。
2023年6月21日 Red Hat は、「CentOS Stream は今後、RHEL 関連のソースコード公開のための唯一のリポジトリとなります」と発表しました。この発表は、Red Hat は今後 git.centos.org リポジトリを更新しないということを意味しています。実際に、この数日前から git.centos.org リポジトリが更新されていないことが、AlmaLinux の開発メンバーの方によって確認されています。
AlmaLinux や Rocky Linux は、自身の Linux ディストリビューションだけではなく、上流の Fedoraプロジェクトやオープンソースプロジェクトにも貢献しているため、この切断により Linux エコシステムになんらかの影響があることは間違いないでしょう。
各社の主張
各社の主張には当然違いがありますが、Linux エコシステムひいては、オープンソースコミュニティの発展を願い、貢献するという考えは一致しているのが興味深いところです。各社の手段は違いますが、目指すところは一緒なのかもしれませんね。
Red Hat
Red Hat’s commitment to open source: A response to the git.centos.org changes
AlmaLinux
Our Value Is Our Values
Rocky Linux
Keeping Open Source Open
各社の動き
AlmaLinux の対応
2023年7月13日、AlmaLinux は、RHELと1:1(完全クローン)を目指すことを取りやめると発表しました。今後 AlmaLinux は、RHEL との ABI(アプリケーション・バイナリ・インターフェース)互換を目指すとしています。AlmaLinux が定義する ABI互換性とは、RHEL(またはRHELクローン)上で動作するようにビルドされたアプリケーションが AlmaLinux 上で問題なく動作することを保証するための作業を意味します。
参考資料:The Future of AlmaLinux is Bright
Rocky Linux の対応
2023年8月10日、Rocky Linux のメインスポンサーとなる CIQ(Rocky Linuxの設立者のグレゴリー・クルツァー氏の会社)は、Oracle、SUSE と共に OpenELA(Open Enterprise Linux Association)を設立すると発表しました。
2023年11月2日 git.centos.org リポジトリの代わりとなる OpenELAのリポジトリ が公開されました。これは私の推測ですが、Rocky Linux や Oracle Linux、SUSEが新たに開発しているRHEL互換のディストリビューションは、OpenELA のダウンストリームになることが予想されます。
参考資料:OpenELA Marks Major Milestones in Governance and Code Availability
おわりに
現在のようにデジタル化が進んだ社会においてオープンソースである Linux は、生活に欠かすことのできない共有財産です。もし AlmaLinux や Rocky Linux など無料の Linux ディストリビューションを利用するのであれば、どのような形でも構わないので開発コミュニティへの参加や支援することをオススメします。
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